日本フォトサイエンスの技術力

紫外線を用いた水処理装置には、主に、水中の微生物の不活化を目的とした紫外線殺菌装置と、水に溶解している有機物を酸化分解することを目的としたUV酸化装置があります。 
これらの装置には 
・紫外線光源であるランプ 
・そのランプを点灯させるための安定器 
・処理水に紫外線を照射する反応器 
・安定器を含めた電源盤 

があります。

これらはすべて弊社のオリジナル設計です。
弊社の技術力をご理解いただくために紹介したい活動の一つに、浄水用紫外線照射装置の日本におけるすべての技術審査基準作りに参加したことが挙げられます。
浄水用紫外線照射装置について、その性能や品質の適正化を図り水道事業体への導入を支援することを目的に水道技術研究センター(JWRC)ではいくつかの技術審査基準を発行しています。
これらの技術審査基準のすべてについて、弊社がその検討委員会のメンバーになっています。また、その基準の中には、以下の弊社の研究成果が活かされています。

JWRC発行の技術審査基準弊社の研究成果
紫外線照射装置JWRC 
技術審査基準
(低圧紫外線ランプ偏)
“光源からの紫外線放射特性”日本水環境学会シンポジウム講演集, Vol.10th, P140-141(2007)
紫外線照射装置JWRC 
技術審査基準
(中圧紫外線ランプ偏)
“光源からの紫外線放射特性-Ⅱ”日本水環境学会シンポジウム講演集, Vol.11th, P57-58(2008)
紫外線照射装置JWRC 
技術審査基準
“光源からの紫外線放射特性”日本水環境学会シンポジウム講演集, Vol.10th, P140-141(2007) 
“光源からの紫外線放射特性-Ⅱ”日本水環境学会シンポジウム講演集, Vol.11th, P57-58(2008)
紫外線照射装置JWRC 
技術審査基準
(UV-LED偏)
“UV-LED光源を用いた流水式紫外線照射装置のシミュレーションによる微生物不活化性能検討” 日本水環境学会シンポジウム講演集, Vol.19th, P245-246(2016) 
“UV-LED光源を用いた反応器内UV照度の算出”環境浄化技術, Vol.16 No.6, P63-68(2017)

弊社の研究成果の内容は、反応器内の照度分布を把握するために必要な、光源からの放射光の強度に関する計算式を示したものです。
その光源は低圧水銀灯、中圧水銀灯、UV-LEDです。
反応器内の照度分布を把握することは、光反応器を設計する上で最も重要な情報です。
と同時に、企業にとっては大事なノウハウでもあります。
浄水処理に携わるということは、社会的な責任があります。
その責任とノウハウの開示とを天秤にかけて、これらの情報を公開することを選びました。
その結果が、市場拡大につながることを願っています。

高性能なランプ

ランプを設計する技術には、 
・どんな波長が有効か(反応メカニズムの把握など) 
・光出力を如何に高くするか(処理水に依存する周囲温度との相性、発光管材質など) 
・寿命を如何に長くするか(使用時間に対して高い照度維持率を確保する技術など) 
などを考慮しています。

30年の歴史の中で、一例としてUV酸化装置に使用する長さ約1.5 mのランプは1年間使用後の光出力が5倍以上になりました。
弊社の装置には光源として低圧水銀灯を用いています。
殺菌には低圧水銀灯から発せられる253.7 nm(以下、254 nmと記す)の波長の紫外線が有効だからです。
また、UV酸化には低圧水銀灯からの波長184.9 nm(以下、185 nmと記す)の真空紫外が酸化反応に寄与しているからです。
しかしながら、低圧水銀灯でなければならないということではありません。
エキシマランプ、LED、レーザーなどの新しい光源が現れれば、その評価を怠りません。
現在はそれらの結果を踏まえて、低圧水銀灯を選んでいます。

近年、蛍光灯はLEDになっていますが、従来は低圧水銀灯でした。先人の研究者らは低圧水銀灯を如何に効率良く、長寿命にするかについて研究してきました。
彼らは、励起密度、電子密度、エネルギーバランス、熱伝導、自己吸収、ペニング効果など、低圧水銀灯の最適設計には多くの理論や現象があることを示してくれました。それでも未だに完成形に至っていません。
特に、弊社で使用するランプは装置に組み込まれているのであって、気中で点灯しているわけではありません。
ランプのこの周辺環境では、従来の研究以外に検討しなければならない項目があります。
そのため、弊社ではランプの試作を繰り返し、この低圧水銀灯を製造するためのノウハウを蓄積しています。
今では他の追随を許さないランプができたと自負しています。今後はさらに高性能なランプを世に出したく、日進月歩しています。

ランプには寿命があります。低圧水銀灯の両端にはフィラメントがあり、ここにエミッタ(電子放出物質)を塗布しています。
点灯開始時にエミッタから多量に電子を放出することでランプが点灯します。
点灯すれば少量の電子を放出しながら点灯を継続します。
このエミッタが枯渇すればランプが切れます。
これが不点寿命です。
ランプ切れはエミッタ枯渇以外の理由でも生じます。
ランプ保証期間内にランプ切れを発生させないようにするためには、どのような検査が必要か。
それを把握した上で、弊社ではランプの全数検査をしています。 
ランプは点灯を継続するとともに、光出力が減衰します。
この減衰があるパーセントに達したときの積算点灯時間を性能寿命と言い、光出力の初期値に対する比を照度維持率と言います。
この性能寿命での光出力で装置性能を確保するように設計しています。
ゆえに、性能寿命を超えると設計性能が得られなくなります。
弊社ではこの減衰に関する研究を行い、いくつかの現象があることを突き止め、減衰を抑制するための手段を得ることができました。
この研究成果として、高い照度維持率のランプを完成させました。

信頼性の高い安定器

安定器を設計する技術には、 
・ランプのどんな特性を把握するか(ランプの電気特性以外に、ランプ寿命末期の挙動など) 
・調光範囲を如何に広くするか(ランプ寿命に悪影響が無い設計など) 
・周辺機器への配慮に必要なことは何か(ノイズ対策、高調波対策など) 
などを考慮しています。
以前の安定器は電磁式でしたが、今ではほとんどが電子式です。
電子安定器に使用するICチップは製造中止になることがあります。
弊社ではその都度安定器を設計して対応しています。

低圧水銀灯を点灯させるためには、点灯開始時のキック電圧と点灯後の定電流制御が必要です。これが安定器の機能です。
弊社ではこれに加えて、ランプの点灯状態を検知してランプ切れが生じた際に信号を出力する機能も追加しています。
また、光出力を無段階で制御する調光機能を持った安定器もあります。 
安定器を完成させるには、日本工業規格をはじめとする各国安全規格などの試験を行って、合格にならなければなりません。
さらに、ランプとのマッチングを確認するために長期間使用してランプに異常が生じないかを試験しています。 
安定器を開発することは、これらの検査、試験をすべてクリアするまでを意味します。
弊社ではこれまで培ってきた電子安定器の設計ノウハウを駆使して、信頼性の高い安定器を開発しています。

最適設計の反応容器

反応器を設計する技術には、 
・どのようにランプを並べるか(UV照度分布や吸収光量の計算など) 
・どのような流れを設計するか(流線の設計、デッドスペースの最小化など) 
・如何にスケールアップするか(ランプ密度や滞留時間の調整など) 
などを考慮しています。

弊社ではUV酸化装置の有機物分解性能やUV殺菌装置の微生物不活化性能を評価する試験設備があります。
その評価結果から自社で装置選定をすることが可能となっています。 
最適設計の一例を簡略化して示します。
長さが同じで直径が異なる5つの円筒形反応器を用意します。
ランプは円筒軸の中心に1本あります。
これに微生物の入った水を流して、殺菌率の結果から各反応器の殺菌性能を求めます。すると、真ん中のタイプの反応器が最も高い性能となることがあります。
この場合、真ん中のタイプが最適な反応器になります。
試験を行わずにシミュレーションだけでこの現象を予測して、反応器を最適設計します。 
次に考えることは、たとえばこれの2倍、5倍、10倍の水を流す条件で最適設計をすることです。

実は、ランプの電力を2倍、5倍、10倍にしても期待する結果は得られません。
そこで、ランプ本数を増やす方法を選びます。
そのとき、反応器の直径は?ランプの並べ方は?などを考慮して最適設計を行います。
その結果、10倍の水量であっても5本のランプ本数で同じ殺菌性能が得られるかもしれません。
もちろん、ランプ本数が10本になる場合もあります。
シミュレーションと試験結果が一致しなければ、シミュレーションを行う意味がありません。
両者の比較を繰り返し、より精度の高いシミュレーションができるように努めています。

客先ニーズに応じた電源盤

電源盤を設計する技術には、 
・如何に客先ニーズに対応するか(ON-OFF制御、異常発生時の信号出力など) 
・如何に将来増設に対応するか(段積みによる耐震計算など) 
・如何に安定器を冷却するか(安定器配置、冷却ファンの風量と位置の設計など) 
などを考慮しています。最新のUV酸化装置、下水用の紫外線消毒装置、浄水用紫外線照射装置ではタッチパネルを採用しており、装置の状態がこれまで以上に見やすくなりました。

日本フォトサイエンスの装置

紫外線光源を用いた主な水処理装置として、UV酸化装置とUV殺菌装置があります。
それぞれ、簡単な概要に触れ、反応原理を紹介した上で、その原理から選んだ光源を示します。
これに「最適設計された反応器」や「客先ニーズに応えた電源盤」を組合せることで、反応器と電源盤を合せた装置になります。

UV酸化

UV酸化装置には、高圧UV酸化装置と低圧UV酸化装置があります。
高圧UV酸化装置は過酸化水素やオゾンなどの酸化剤と高圧水銀灯からのUVとの反応からOHラジカルが生成され、有機物を酸化分解する装置です。
低圧UV酸化装置は、UV酸化用の低圧水銀灯から発せられる波長185 nmの真空紫外と水との反応OHラジカルが生成され、有機物を酸化分解する装置です。
酸化分解された有機物は有機酸や二酸化炭素に変化するので、これらを後段のイオン交換樹脂(IER)やイオン交換膜で吸着します。有機酸は有機物であるため、UV酸化装置の出入口では有機物濃度がほとんど変化していない場合もあります。

高圧UV酸化装置が稼働している現場は、今では数少なくなりました。
低圧UV酸化装置は超純水を製造するために不可欠な装置であり、今後も継続して使用されるものと予想されます。
ここでは低圧UV酸化装置のことをUV酸化装置(TOC-UV)と称することにします。 
UV酸化装置は水中に溶存しているTOC(Total Organic Carbon)を低減することを目的に、半導体工場、液晶や有機ELなどのFPD(Flat Panel Display)工場などの超純水製造ラインに使用されています。
水中に溶存している有機物を低減する手段として、活性炭吸着、イオン交換吸着、逆浸透膜分離、脱気などの単位操作があり、これらによって、疎水性有機物、有機酸、IPA(イソプロピールアルコール)以上に大きい分子量の有機物、揮発性有機物などが除去されます。
それでも除去できない有機物を低減するためにUV酸化装置があります。
弊社のUV酸化装置は、高効率化を目指して絶えず進化しています。
その結果、多くのお客様のところでご採用いただいており、日本、中国、韓国、台湾ではほとんどのUV酸化装置が弊社製になっています。
そのお客様からのご要望やご質問の一部をご紹介すると、以下のような問合せがあります。

▶ 一例として、流量100 m³/hでTOC濃度10 ppbを1 ppbにしたいので、装置選定してほしい。 
▶装置性能とは別に、TOC濃度が低下しない外的要因についてアドバイスしてください。 
▶DO(溶存酸素)濃度が上昇する理由が知りたい。 
▶トリメチルアミン、エタノールアミン、クロロホルム、尿素などの有機物を分解できるか。 
▶既設装置を高効率化した最新型装置に入れ替えたい。 
▶既設装置を改造して省エネにできないか。 
▶石英外管の寿命に関する技術情報を知りたい。 
弊社ではこのような問合せに迅速に対応しています。

反応原理(TOC源がメタノールの場合)

(1)式の185nmの紫外線で水から生成された・OH(OHラジカル)がメタノールと反応して、(2)式のように有機酸であるギ酸と二酸化炭素を生成します。
ギ酸は(3)式のように水中ではイオン化します。
UV酸化装置の出口では有機物の一部は有機酸の状態です。
有機酸はTOCですので、UV酸化装置出口ではTOC濃度は顕著に低下していない可能性があります。
二酸化炭素は水中では(4)式を経て、(5)、(6)式に示すようにイオン化します。イオン化した副生成物は低圧UV酸化装置後段のイオン交換樹脂で吸着されます。

光源

殺菌効果のある光を放射する光源には、低圧水銀灯、高圧水銀灯、UV-LED、エキシマ、キセノンランプ、重水素ランプ、プラズマ、レーザーなどがあります。これらの中で波長260 nm付近を最も高い効率で放射する光源は、低圧水銀灯です。
ゆえに、UV殺菌装置には低圧水銀灯である殺菌ランプを使用しています。
水俣条約では水銀を使用した製品の製造販売を規制していますが、UV殺菌装置に使用する殺菌ランプは一般照明でないため、適用除外となっています。
これはUV酸化装置の酸化ランプも同じです。 
UV-LEDもいずれは同等の効率に達することを期待して、弊社では既にUV-LEDを光源とする反応器内照度分布の計算プログラムを作成しました。
他の光源が現れれば、同様に計算プログラムを作成し、その光源に応じた最適設計をしたいと考えています。
その結果が、現在の殺菌ランプによるUV殺菌装置より高性能とわかれば、その新光源によるUV殺菌装置を推奨していきます。

UV酸化装置の光源として、波長185nmの真空紫外を放射する低圧水銀灯を選んでいます。 
水からOHラジカルを生成するためには、水分子H-O-HのH-O結合を解離する必要があります。
そのために必要なエネルギーは、499±1 kJ/molです。
これを波長に換算すると、約240 nmになります。
ゆえに、水に波長240 nm以下のUVを照射すれば、H-Oが解離する可能性があると言えます。
一方、光反応を進行させるためには、その光を吸収することが大原則です。これが光化学第一法則(Grotthus-Draperの法則)です。
波長240 nmのUVは、ほとんど水に吸収されません。
光の吸収を考慮するなら、200 nm以下の波長が適当です。
このようなことを考慮して光源を選んでいます。 
UV殺菌装置とこのUV酸化装置は、ともに低圧水銀灯を使用しています。ただし、前者は波長185 nmを放射せず、後者は放射するという違いがあります。
ここでは両者を区別するため、前者を殺菌ランプ、後者を酸化ランプと呼ぶことにします。
2つのランプの発光分布の違いは、波長185 nmのUVを放射しているかどうかだけです。つまり、酸化ランプも殺菌をします。

UV殺菌

UV殺菌処理の特長の一つは、残留性が無いことです。
これに対して、消毒用塩素は残留性があります。
これらの用途の中で消毒用塩素が使用できるのは浄水と下水だけです。
海外では、浄水や下水の消毒に消毒用塩素を使用しないところもあります。 
 UV殺菌装置をご使用していただいている用途には、 
・電子産業などの純水、超純水 
・製薬用水 
・飲料用水 
・浄水 
・下水 
・液糖 
などがあり、これらは水の透過率が異なることから、それぞれに応じた装置があります。

UV殺菌の原理

UVは、微生物の中の核酸(DNA、RNA)の一部を変化させることで、増殖能力を停止させます。
これを一般的には殺菌と表現していますが、専門的には不活化と言います。
この現象はUVと核酸による一種の光反応です。
光反応とは対象物が光を吸収することが第一原理です。
UVの波長に対する核酸の吸光度が図1に示されています。
260 nm付近の波長に核酸の吸収があることわかります。
また、同図に微生物の不活化曲線が描かれています。
この曲線のピークも260 nm付近にあることがわかります。
つまり、核酸が260 nm付近のUVを吸収することで光反応が進行し微生物が不活化することが、UV殺菌の原理です。

UV殺菌は塩素消毒とは異なり、残留性がないことが大きな特長です。塩素消毒では必要に応じて残留する消毒用塩素を除去する設備が設けられるだけでなく、消毒副生成物である有機塩素系化合物についても配慮しなければなりません。
UV殺菌ではこれらを考慮する必要がありません。

RED

浄水分野では装置性能を表現する方法に従来の紫外線照射量ではなく、RED(換算紫外線照射量)を用いています。
ここでは、このREDについて紹介します。